精神保健指定医 臨床心理士 高田広之進
S31 鳥取市生まれ
S56 岡山大学医学部卒業 岡山大学医学部精神科医局入局
S57 向陽台病院勤務 S59 広島市児童総合相談センター・愛育園勤務 児童精神医学・カウンセリングを学ぶ
S63 精神保健指定医資格取得
S63 精神保健指定医資格取得
H2 臨床心理士資格取得
H3 慈圭病院勤務 病棟医長
H12 岡山県臨床心理士会幹事
H12 福山仁風荘病院勤務
H13 岡山県立笠岡高等学校教育相談スタッフ
H14 産業医資格取得 H14 岡山県立大学非常勤講師
H15 6月「たかたクリニック」開業
H20 「精神科専門医」(日本精神神経学会認定)資格取得 現在 下記兼務 就実大学非常勤講師 (不登校児などのための)フリースクール通信制サポート校「聖友館」嘱託医
専攻 児童期青年期精神医学 臨床心理学
父親として悩んだことは?
9年前に広島から岡山へ引っ越してきた時にいろいろと大変で、気づいたら3歳の息子が何度も何度も強くまばたきをしていました。 眼科などで診てもらって、結局チックだとわかったのですが、何かため息のようなものが出ました。ふだん講演会などで「親が心にゆとりを持って子育てをしましょうね」と言っていたのに、引っ越しや転勤というストレスで、僕自身も妻も、心のゆとりをなくしていたんですね。僕は妻と相談して、叱るのを減らしました。 しばらくしてチックは治ったのですが、息子はひどく自己主張が強くなり、わがままにもなりました。物事はうまくいかないものですね(笑)。 このことがあって、子どもは決して親の思うとおりにはならない、と自分の体で教訓を得ましたね。 それから、ゆとりを持つということが実際にはすごく難しいということも。
先生の子育ての基本姿勢とは?
好きなように生きさせてやりたいと。自分のための人生なわけだから、自分が幸せになるようにしてほしい。僕自身が親の価値観に振り回されて育ってしまったから、本音でそうしてほしいと思いますね。
振り回されて、とは?
僕は子どもの頃、ひどい「どもり」でした。どもりとチックは、心理学的にはほぼ同じような機構で起こるものです。僕の親は、いつも「ああしろ、こうしろ」とうるさくて、とにかく勉強すること以外は何も許さない感じで。スポーツや音楽も禁止されていて、読書していて叱られたのを、今でもよく覚えています。 子どもにとって親は、自分の住む世界のほとんどすべてですから、僕は毎日おびえて生活していたんですね。
ふだんはどのようにお子さんに接していますか?
家というのはそれぞれの人間が、本音の、ドロドロとした部分を出すところでしょう。だから、仕事の時のようには、できていないんですけど・・・。
僕には、人と対するうえで気をつけている「二つ」と「三つ」というのがあるんです。はじめの「二つ」は、なるべくいつも健康でいることと、笑顔を忘れないこと。次の「三つ」が、ほめる、共感する、約束を守る、ということ。
もう半分おまけで付け加えるとしたら、「必要な時は短く、強く、ひとつのことだけを愛情をもって叱る」ということです。
なかなか難しいけれど、子育てはこの「三つ半」につきると思う。これは一応心理学的な理論としても裏づけがあることで、実は僕がカウンセリングで相談に来た人にしていることも、この「三つ半」なのです。
親としても医師としても、とにかく迷った時にはお経のように心のなかでつぶやいて、それに沿って動いたりものを言うようにしていますね。
なぜ、ひとつではなく「半」?
叱ることは絶対に中心にいてはいけないからです。人は叱られることでよい方向へ伸びることはないと思います。それに叱ることは簡単なことですしね。意識しなくても、親は子どもを叱っているのです。
ほめることを引き立たせるために、必要最小限度のことを叱る、というぐらいのウエイトがいいと思います。
子育てで悩んでいらっしゃる患者さんや相談者のうち、すでに子どもがいるのに、親である自信がないという人も多いと思いますが?
まず「だめな自分」も受け入れることです。現代の日本のように文明が複雑化した社会では、思春期は40歳ぐらいまでといわれているんですね。明治時代なら20歳で大人になれたのに、現代ではその倍かかる。
僕もそのひとりだったのですが、十分に大人になりきれない人が、生物学的には親になり、子育てをするわけです。ある意味、居直るしかないところがありますね。
初めから立派な親である人などいない、と。子育てというものは、子どもを育てるだけじゃなく、親も育っていくものだと思います。自信ではなく、子どもと一緒に育っていこうという決意の方が大切なんです。
理想的な親なんてどこにもいない。子どもの可能性を信じて、小さなことでオロオロせずに見守っていくこと。「信じて見守る」、これが親のつとめだと思います。